継承|伯父の足跡を辿る(1):軍歴証明書と兵籍資料

亡き伯父のことが繰り返し頭に浮かぶ時期がありました。伯父が亡くなったのは私が生まれる前なので、一緒に遊んだなどの思い出はありません。


戸籍抄本を取りに役所に行ったとき、何となく話の流れで、伯父のことを何か調べられないか聞いてみたら、「戦争に行ったのなら軍歴を調べたらどうか」と教えていただきました。某区役所の方、ありがとう。


伯父は、戦争から帰ってくることはできたものの、戦地でのことをほとんど語ることがなかったそうです。一般的に知られる傷病兵のように手足を欠損するような大きな負傷はなかったけれど、心には相当深い傷を負っていたのだろうと思います。今のようにPTSDの概念もなく、戦争の後遺症についても検証されず、むしろ認めなかったり隠されていたような時代です。

伯父はいつどこへ行き、何を見たんだろう、どんな体験をしたのだろう?あくまでも証明書なので、伯父がどんな思いでいたかはわかりませんが、取り寄せてみることにしました。


1.軍歴証明書とは
まず、Wikipediaで軍歴証明書について調べてみました。

かつて戦争に従軍した軍人並びに軍属、従軍文官が招集から除隊までの任免、配属、賞罰、傷病、その他進級や昇給等の処遇について記録した文書のことである。
日本における軍歴証明書は、主に満州事変以後に従軍した陸軍・海軍の元将兵について記録した文書であり、主に恩給や保障を受ける際の証明などを目的として本人または3親等以内の親族に対して発行している。


1-1.本人が亡くなっていても請求できる?
恩給や保障を受けるための証明が目的ならば、本人が亡くなっている場合はもう発行してもらえないのか?基本的には本人のための書類であり、第三者は閲覧することはできないのですが、本人が亡くなったことがわかる謄本があれば大丈夫だそうです。
私が申請する場合の申請理由は?恩給でも保障でもないけれど・・。問い合わせた結果、申請書に請求理由を書いてもらう欄があり、そこに家族の歴史を知りたいためと正直に書いても、大丈夫とのことでした。


1-2.請求できるのは、3親等以内の親族
孫が祖父の分を取り寄せるのはもちろん、伯父から見て実弟の子供にあたる私も発行してもらえます。ということは、私の後の世代(ひ孫とか、私や従兄弟の子供とか)は4親等にあたるため、もう請求ができないということになります。
保存期間が70年とか80年という話も耳にしていたため、記録自体いつまで残っているか心配していましたが、こっちの心配もあったのですね。
いずれにしても早く請求した方がよさそうです。


1-3.記載されている事項
氏名、官職、叙位叙勲以下、招集時期、出航した港、配属、任官、進級、従軍記録、賞罰、傷病と治癒に関する記録、招集解除時期などがわかるそう。


1-4.対象者
1931(昭和6)年から1945(昭和20)年、つまり満州事変から太平洋戦争終戦までの約14年間に陸海軍に入隊していた旧軍人。
ただし、戦況が悪化した終戦間際に入隊した人の記録はあるかどうかわからない、また、記録はされたものの、現在までの間に何らの事情で消失してしまったケースもあるとか。それにしても、厚生労働省によれば、終戦時点での日本軍の総兵力は334万5100人。こんなたくさんの記録(しかも紙)は、空襲や戦後の混乱の中、日本のどこで、どんな人たちの働きによって、今日まで保管されてきたのだろう。当時のことを伺うと、想像以上に行政が機能していたことに驚きますし、どんなご苦労があったのか、こちらの方も気になりました。




2.早速、請求してみる
記録が残っているかどうかもわかりませんが、あとで「あのとき、請求しておけば」と後悔しないように、請求したいと思ったときには保存期間を超えてしまい、記録がなくなったということがないように、すぐに請求しました。
伯父に会えるわけではないけど、会えるような嬉しさがありました。

2-1.どこに請求するの?
本人がどこに所属していたかによって、請求先は変わります。

  • 海軍軍人 → 厚生労働省
  • 陸軍軍人 → 各都道府県の社会福祉担当部署(本人の終戦時の本籍)
  • 陸軍文官 → 厚生労働省


防衛省じゃなくて厚生労働省なんですね。厚生労働省と自治体で分かれているのも何でだろう?と気になりましたが、今回、そこは調べずにすっ飛ばします。

伯父は陸軍文官ではなかったと聞いていますが、その前に陸軍だったというのも本当かどうか、こういう時って心配になるものです。本人が戦死している場合であれば、戸籍謄本に死亡年月日と戦没地、戦死の届出をした部隊長の指名が記載されているそうですが、戦死ではない伯父の場合は、親族からの情報が頼りになります。
こんなとき、すぐに聞ける親族がいないなど、もっと情報が少ない人は一体どうしたら・・・?
写真があれば軍服などから、遺品があれば記載されているものがヒントになったり、お墓が代々続いていればお寺に聞いてみる・・くらいしか思いつきませんでした。本籍地がわかれば戦没者名簿(自治体、図書館、郷土資料館、護国神社など)とか?
実際やるとなると、これはなかなか大変です。
そして時間が経てば経つほど、大変になりそうです。


2-2.証明書、東京都の場合
伯父は陸軍で、終戦時の本籍地は東京都なので、東京都福祉保健局に問い合わせをしました。軍籍証明書は、履歴を証明するに過ぎないので、いつ入退、いつ除隊・・という簡単なものだそうです。
東京都の場合は「軍歴証明書」ではなく「兵籍」を閲覧、もしくはコピーの送付とのこと。いつどこに居たか、任免、配属、賞罰、傷病、その他進級や昇給等の処遇など、一通りのことが記載され、しかも、履歴書みたいにきれいに打ち直しをした状態で発行しています、とのことでした。



自治体によってはまとめられた軍歴証明書がなく、兵籍簿をそのまま軍歴証明書として交付されているそうです。ただ手書きだったり旧字体も含まれ難解なため、打ち直ししている自治体も増えてきているとのこと。
また、請求前に、そもそも記録があるのかどうかを事前に調べてくださいました。色々書類を取り揃えて申請したのに、記録がなかったということがないように。このとき

  • 本人の名前(漢字・読み方)、生年月日、本籍地
    ※よくある名前なので、同姓同名の人がいないとも限らないため、どの地域に居たと聞いているか?など、より個人を特定しやすそうな情報こちらから提供しました。
  • 請求者(私)の名前、住所、電話番号、続柄


後日連絡をくださり、記録の存在を確認できたことと、申請手続きの詳細を説明をしてくださいました。ただ記録があったというだけで、写真があるわけでもなく、他のことは全くわかりませんが。それでも、まるで会う約束をしたかのような嬉しさがありました。
伯父も、自分が死んだあとに生まれた姪っ子が、自分のことを関心を持って調べるとは想像もしていなかったでしょうから、あちらの世界で驚いているかもしれません。



3.実際にした申請手続き(記録)
ここから、実際に申請するまでのメモや、実際にしたことなどを記録として書いていきます。

申請から到着までは、通常ならだいたい2週間程度で届くそうですが、年度末(3月)など繁忙期は、3週間~1カ月近くかかってしまう場合もあるとのことでした。

【2019年4月追記】到着まで
一番忙しい3月に請求してしまったのにも関わらず、到着までは1カ月もかかりませんでした。窓口で「軍歴証明書を取り寄せてはどうか」と言われてから、まず軍歴証明とは何か?叔父はどこに所属していのか?を調べ始めました。その時点から数えても3カ月くらいでしょうか。


3-1.必要書類①:申請書
東京都の場合、申請書は郵送でした。もしかしたら、こちらから問い合わせしたり、事前に記録の有無を確認して頂いた経緯があるからかもしれません。(自治体のHPからダウンロードして印刷することもできるようです)。
申請書の「申出に係る資料の件名及び内容」の欄には、「仮戦時名簿」「招集解除者連名簿」「本籍地名簿」と書くように、メモを付けてくださっていたので、そのまま転記しました。


3-2.必要書類②:申請者自身の身分証明証
私は、運転免許証のコピーを用意しました。


3-3.必要書類③:謄本
申請者(私)と旧軍人(伯父)との関係を証明するためのものですが、謄本を見てわかる情報もあるかもしれないので、先に手元に用意しておいてよいかもしれません。

  • 旧軍人の除籍謄本(亡くなっている場合)
  • 申請者の戸籍謄本


私は3親等(伯父と姪)なので「伯父と父」「父と私」の関係を証明する書類が必要になります。市区町村の役所の窓口で「伯父と私が三親等であることを証明する必要があるのですが」と伝えれば、教えてくれます。


3-4.支払い:定額小為替

申請料の支払いです。
郵便局の窓口で「定額小為替振出請求書」を記入すればOKです。




3-5.返信用封筒と切手
返信用封筒には、返信先住所(自分の名前と住所)を書いておきます。切手は貼らずに少し多めに同封しました。

【追記:2019年4月】返信用封筒について
謄本や身分証明のコピーなどは返却してくれるため、細かい金額の切手を多めに用意しておいてよかったと思います。返信用封筒はA4サイズのものがよいです。私はうっかりB5サイズの封筒を送ってしまったのですが、東京都の担当者の方が、証明書を折らず送れるよう、A4サイズの封筒に入れてくださいました。
マナー的として書類を折らずに送るのは当たり前と言われたらそうかもしれませんが、請求者にとっては身内の、しかも故人の大事な記録、丁寧にお取り扱い頂いたことに感謝の気持ちが湧きました。
都の職員の方、お手数をおかけしました。ありがとうございました。
(伯父さん、ドジな姪でごめんよ)


3-6.送付方法
定額小為替を同封するので、普通郵便よりも簡易書留の方がいいかもしれません。配達の記録を取りたいのなら特定記録郵便でもいいと思います。




少し時間を置きますが、続きます。

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