書籍|死にゆく人の17の権利(著者:デヴィッド・ケスラ―)+追記あり

高齢や病気の家族が居ると、頭のどこかで考えている「お別れの時」。状態がよくないときは日々のことに精一杯だし、状態がいいときは考えたくない。元気なうちにとは思うけど、話題にするのは気が引ける。備えることは不謹慎な気もするが、急に対応できるわけがない。



みんな葛藤しているんだ、改めて考えたいと思ったとき、読んだのがこの本。
エリザベス・キューブラー=ロスとの共著でもお馴染みのデヴィッド・ケスラ―さんの「死にゆく人の17の権利」。

いつの時代も「死」の話題はタブーのひとつだけど、家族葬も増え、ネガティブな話はよろしくないという風潮が強くなり、「死」に接するとか、考えるとか、自然に学ぶ機会は数十年前よりぐっと少ない気がします。

「権利(rights)」の概念もその扱いも、日本とは異なる国の人が書いた本でも、なるほどと思うこと多し。まずは本書の中に出てくるマザー・テレサの言葉から。
彼女は「死は人生の中で最も重要なときの1つ」だと言っていたそう。

死にゆく人を恐れないでください。
とても簡単なことです。
死に向かっている人は、優しく愛されることを必要としています。
他には何もいりません。


本書は、この考えがベースになってると思います。著者、ケスラ―さんは本の中でこう言っています。

私達の祖先は、病気の人や死に向かう人の介護をし、準備をして、亡くなった人を埋葬し、弔い、子供たちもそれを見ていた。私達は死に関する直接体験を殆ど持っていない。もしも、より意味の深い個人的な経験をしたいと思うなら、過去に立ち返って、基本を身に付けなければならない。

さて、その17の権利とは・・・

1.生きている人間として扱われる権利
2.希望する内容は変わっても、希望を持ち続ける権利
3.希望する内容は変わっても、希望を与えられる人の世話を受け続ける権利
4.独自のやり方で、死に対する気持ちを表現する権利
5.自分の看護に関するあらゆる決定に参加する権利
6.必要なことを理解できる、思いやりのある、敏感な、知識のある介護を受ける権利
7.治療の目的が「治癒」から「苦痛緩和」に変わっても、引き続き医療を受ける権利
8.すべての疑問に正直で十分な答えを得る権利
9.精神性を追求する権利
10.肉体の苦痛から解放される権利
11.独自のやり方で、痛みに関する気持ちを表現する権利
12.死の場面から除外されない子供の権利
13.死の過程を知る権利
14.死ぬ権利
15.静かに尊厳を持って死ぬ権利
16.孤独のうちに死なない権利
17.死後、遺体の神聖さが尊重されることを期待する権利


たとえば、「1.生きている人間として扱われる権利」から。

死を目の前にした人々は、命が尽きる瞬間まで生きている人間として扱われることを望んでいるし、そう扱われる権利がある。しかし、私達は彼らを病名で認識し、自身で決断する能力がないかのように扱い、意見をないがしろにし、望みを見過ごし、情報を与えず、会話の外に置くことによって、彼らをいわば亡くなった人として扱っていることがしばしばある。
知らず知らずのうちに、私達は彼らの尊厳を、希望をそして人間性そのものを奪っている。死を目の前にした人々がこの世を後にすることは否定できないが、彼らに対して、壊れた、あるいは完全でなくなったかのような扱いをすることは、決してあってはならない。
病気であっても、死が近くても、彼らは依然として完全な人間である。生命は死によって終わるのであり、その前に終わるわけではないことを、私達は常に肝に銘じていなければならない。


病気や本人の状態にもよるところですが、家族だけで話を済ませてしまったり、本人にどこまで何を知らせるべきか悩んでる間に時間がどんどん過ぎてしまい、この権利が守られないことはあり得ると思う。ただ、知らずに守れなかったのと、知ったうえで守れなかったのとでは、何かが違ってくるのでは?知ったが故に苦しいということもあるかもしれないけれど。




*  *  *  *  *  *

【後記:2015年10月】
実際にその時になると、どこまで守れたかというと疑問です。
知っていたのにちゃんと守れなかったという思いもあるし、知らなかったらもしかしたら尊厳を奪っていたかもしれないとも思っています。苦しいけど、考えた、向き合った、それが態度や姿勢に表れて、少しでもあの時、父が「とても大事に扱われている」と感じてくれていたら・・と思います。
また、死ぬまで生きているんだから、笑っちゃうような瞬間はたくさんあっていい、だから、今日1日を一緒に楽しむこと、に注力したようにも思います。

もちろん、今となっては本人に聞くこともできず、確かめようがないのですが。看取りは私にとって初めてだけれど、父のとっては人生の最後の時間。そんなプレッシャーは常にどこかにあったようにも感じています。

何をやっても、どれだけ頑張っても後悔は残るし、後から気づくこと、わかることがたくさん出てきてしばらく泣くことになる。とにかく、やれるだけのことは精一杯やろうと、自分を奮い立たせていた頃が懐かしいです。

看取りの前に、読んでよかった1冊です。


 

コメント