書籍|真実のインパール(著者:平久保正男)/敵国との和解

 第二次世界大戦のインパール作戦の体験記です。激戦地で新米の主計(食糧調達)係が部隊のために調達するご苦労は、想像もつかないことばかり。書籍というよりも資料と言った方が正しいかもしれないくらいの本で、読み応えがあります。


また、インパール作戦がどれほど過酷で無茶な作戦であったか、そして終戦後の著者さんの活動についても関心を寄せて頂けたらと思います。

 

インパール作戦
第二次世界大戦中の1944(昭和19)年3~7月、ビルマを占領した旧日本軍が、インパール(連合国軍による中国への物資補給の拠点)の攻略を狙った作戦。
国境地帯の山間部を越える険しいルートにも係わらず、補給を軽視し、次第に英軍に圧倒され惨敗した。命令に背いて退却した部隊もあった。日本兵は豪雨地帯で感染症や飢餓に倒れ、3万人以上が死亡したとされる。


戦地では、兵站(へいたん)は重要だが、昭和19年の戦局が劣勢となった日本には既に物資はなく、輸送ルートは次々と断たれていき、現地調達に頼らざるを得なかった。「もし途中に村でもあればそこで米を徴収できるだろう」とだけ言われて送り出され、20日分の食糧のみを担いで険しい道々をひたすら歩き続けたという。
もう手持ちの食糧はなくなり、やっと戦場に到着した頃には村人が食糧を持って既に逃げた後。いったいどうやって調達したのだろう?

NHK戦争証言アーカイブス:
ビルマの戦い~インパール作戦 「白骨街道」と名付けられた撤退の道
https://www.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/special/vol6.html




著者の平久保正男さん
商社に入社後に徴兵され、軍国青年としてビルマに出征、主計士官(食糧調達係)としてインパール戦線に従軍。終戦後は、英国の戦友会との交流を始め、和解運動を推進した人としても知られている。徴兵されたときのことを、柳原和子著「在外日本人」のインタビューでこう答えている。


貿易商だった父は「日本が生きる道は貿易立国しかない、国防はあってもよいが、あくまで交渉と妥協でいかなければならない」という意見で、国運を武力に賭ける当時の支配的な考え方には大反対でした。
私は師団司令部に着任してすぐ、経理部長からインパール作戦の説明を受けたんです。瞬間、「なんたることか」と思いました。
彼は「後方から食料を送れない、そもそもが無理な作戦だと思う」「お前たちの部隊が何週間戦えるかは君たちの双肩にかかっている」(中略)国家というものは、米一粒、弾薬も補給せずに兵士を戦場に送り出すものなのか、と愕然としました。
忠君愛国とか、大東亜共栄圏といった、親父と決して相いれなかった理想が、ガラガラと音を立てて崩れたんです。



戦闘だけでなく、飢餓や悪疫(マラリアや赤痢)による死者数もかなりの数に。戦争終わったとき、平久保さんは2つの誓いを胸に帰国する。
ひとつは「祖国の復興」、もうひとつは「日英関係の修復」。

「せっかく祖先が築いた日英の良好な関係を台無しにしたのは、兵士、銃後、また敵味方を問わず、われわれの世代全員の責任だ。すぐにでももどってきて、あなたたちの遺骨を拾い、慰霊します。廃墟と化した祖国の立て直しを自分たちの力で成し遂げ、日英関係をもとの段階まで戻す努力をします」と戦友たちの亡き御霊に誓ったんです。



元英国兵士のもとを訪ね歩いては、憎悪の念をぶつけられる日々。2つ目の誓いを果たせるのはいつのになるのかと心にひっかかり続けていたある日、同じインパール作戦でコヒマに従軍した2人の英国人元軍曹がロンドンの日本大使館を訪れた。彼らは平久保さんが考えていたこととまったく同じこと、「日本兵士と英国兵士の和解」「日本の戦没者へのお参りをしたい」と言っているという。
それをきっかけに日英の戦友会の交流が行われ、活動は広がっていった。

私たち老兵も年々、死界にいく人が増えています。われわれがいなくなったら、この運動の灯も消えてしまうのでしょうか。過去を空白にして新しさを求めても長続きしません。
われわれの時代にはこんな戦争があった、そしてその長い間両者に憎しみを残し、それを克服するために私達はこの活動を続けたのだということを、戦後世代に伝え、その基盤の上に立って親善を深めていってほしいと祈るような気持ちでいます。



2008年、2つ目の誓いも果たした平久保さんは戦友たちの元に旅立っていった。
戦後70年にあたる2015年6月24日、旧日本軍による泰緬鉄道の建設に携わった旧日本兵と、労働を強いられた元英兵捕虜が22日、ロンドンで対面し、和解の固い握手を交わしたというニュースが掲載されていた。
その記事によれば、元英兵捕虜のアチャリーさんは、

人格ではなく、その人が偶然に属している集団から、その人となりを判断することは誤りだ。戦争は軍人ではなく、(時の)政府によって行われるものだということを忘れてはいけない。



と強調した。
本を読んでいると、こういう言葉が余計、心に染み入ります。



真実のインパール―印度ビルマ作戦従軍記 (光人社NF文庫)

戦慄の記録 インパール




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<編集後記>
戦争などつらい話は避けられがちですが、もし、この記事を読んで少しでも心が動いたら、まずは1冊、どんな本でもよいけど、この本も是非読んでみてください。こういう時代を経て今の私達があることを忘れないようにしたいものです。戦争を知る人達が減っていることが話題になるけど、その人たちが残してくれた言葉を、私達はちゃんと聴いてきただろうか、そんなことも振り返る必要がありそうです。

 

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