東京|明治創業、蕎麦の老舗:神田まつや/ちょっとお蕎麦の話

前回、甘味処の竹むらさんの記事を書きましたが、今回はそのすぐ近くにある老舗のお蕎麦屋さん「神田まつや」さん。実は、竹むらさんに行く前に訪れたら、満席。日を改めて来てもほぼ満席!さすが人気のお蕎麦屋さんです(基本的には、並ぶものと思っていい感じです)。

神田まつやさんは1884(明治 17) 年創業、大正、昭和、平成を経て令和の現在でも伝統の江戸の味を守り続けています。こちらも池波正太郎さんが通った名店です。


 

店舗は、関東大震災後の1925(大正14)年に建築された木造2階建て。「出桁造り(だしげたづくり)」と呼ばれる軒が前面に張り出した屋根が特徴。


戦災を逃れただけでも奇跡的なのに、高度経済成長期やバブル経済で街並みも大きく変わっても、ここだけ当時を想像させるような雰囲気が残っています。

お店には引き戸が2つあり、向かって右側が入口、左側が出口になっていました。


店内は混んでいて写真が撮れないのですが、昔ながらのお蕎麦屋さんといった感じのテーブルと椅子が並び、奥の方には蕎麦打ちしている様子をガラス越しに見られるようになっていました(タイミングによっては見られるのですが、時間帯は不明です)。

 

メニューの一部。

 外国人向けに、写真付きの英語メニューも。


 

江戸前蕎麦というと、かつおだし+濃口醤油で作られた真っ黒い蕎麦つゆが定番ですが、今回は、ごまダレでいただく「ごまそば」にしました。最近少しずつ増えてきましたけど、初めて食べたときはお蕎麦とごまダレって意外と合うのに驚きました。このあとにいただく蕎麦湯も、ごま味です(笑)。


 

そういえば、地方から東京に来た人から、

「東京ってお蕎麦屋さんが多いよね」
「つゆが醤油と同じ色なの?」
「蕎麦湯って何?ゆで汁飲むの?」

と言われたことがありました。

私は、東京・神奈川にしか住んだことがないので、どれも当たり前に思っていましたが、確かに言われてみれば・・・・。

東京・・というより江戸時代の話になるのですが、屋台でちょっと小腹を満たす文化が発達していて、庶民に人気だったのが、うなぎ、寿司、天ぷら、蕎麦。江戸後期(1860年以降)になると、江戸の人口およそ100万人に対し、お蕎麦屋さんは3700軒もあったとか(江戸の蕎麦屋第1号は日本橋「信濃屋」だといわれています)。

お蕎麦自体はかなり昔から食されていたのですが、あんまりおいしいものではなかったとか。それがどうして江戸では爆発的な人気になったのか?

 


 

1.江戸周辺では小麦があまり採れなかった
決して土壌が豊かとはいえず、人口もどんどん増える一方の江戸においては、小麦と比べて収穫までの日数が短く、丈夫で育ちやすい蕎麦の方が浸透しやすかったと言われています。せっかくならおいしく頂こうと、職人たちが技術を向上させ、頭を捻り、競い合った結果、どんどんおいしくなったのだとか。

2.江戸の町民事情
東京って他から見ると、「一部のエリアを除いて、地味で合理的で質実剛健」「歩く、喋るなどの動作スピードも異常に早い」らしい。都会ということに加えて、江戸っ子の「気が短い」「せっかち」な気質が残っているからかもしれません。
茹で上がるまでの時間もうどんより短く、手軽に食べられ、身体によい、しかも江戸中期から店がどんどん増えておいしさを競ってるので、ちょうどよかったのかも?
また「江戸患い(ビタミン欠乏症の一種である脚気)」が大流行したことがありました。主食が玄米から白米になったことが原因のひとつとされていますが、蕎麦にはビタミンが含まれているので、知識や理屈はさておき、身体の感覚で「これは体によさそうだ」みたいな感じで好まれたのかもしれません。

 

お蕎麦を頂いたあとは、蕎麦湯です。
これも習慣がないと「ゆで汁でしょ?でも、うどんのゆで汁は飲まないんでしょ?」と思うかもしれませんねぇ。蕎麦湯を飲む風習は、信州で始まって、江戸時代中期に江戸に広まったものだそうです。 


今回はごまダレ+蕎麦湯、ゆず七味唐辛子を少し加えて頂きました。

 

蕎麦の風味が溶けだした白くて濁りのあるお湯を、つゆが残る蕎麦猪口に注いでいただくだけなのですが、そのお湯はあっという間に沈殿し、最後の方はドロドロ。そこに行き着くまで、薬味を加えたりしながら味わいます。温度も熱々ではなく、飲みやすいぬるめの温度です(せっかちな江戸っ子は「冷めるまで待っていられねぇ」とか言いそうだから?)。

それがおいしいかどうかというより、お蕎麦を頂くこととセット、そういうものだと思ってきました。改めて考えると、何で飲んでるんでしょうね??そのあと、デザートを頂くとしても、これを飲んで落ち着いてから・・という感じです。だったらお茶でもいいではないか?というと、それもまた違うんですよね。本当にお蕎麦が好きで詳しい人だったら、この蕎麦湯にも格別な思い入れがあるところなんでしょうけれど、私は全然語れません(笑)。

そもそもの話として、何をきかっけに飲むようになったのかもわかりませんが、身体を温める、消化吸収を助けるなど、何らかの効果があるとされています。

 

また、やっぱり東京の人は蕎麦が身近で好きなんだろうなと思うことのひとつに、蕎麦猪口を集めていたり、便利だからと他の用途で使っていたりもするんですよね。それすらも珍しくないから気づかなかった(笑)。

東京といってもそれなりに広いんだけど、神田まつやさんは、神田あたりに来たら是非寄って欲しいお蕎麦屋さんのひとつです。運よく、蕎麦打ちシーンが見られるといいですね。

 

神田まつや
http://www.kanda-matsuya.jp/





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