台湾|徐々に規制が進む檳榔、姿を消していった檳榔西施
台湾で時折見かける檳榔攤(ビンランタン=檳榔を売る店)。せっかく台湾に来たんだから・・といっても、珍味以上に手を出せなかったのがこの「檳榔(ビンラン)」です。嚙みタバコのようなものらしく、台湾、東南アジアを中心にパキスタンやインドでは嗜好品扱いで、覚醒感や軽い興奮作用があることから台湾では長距離運転や肉体労働時の眠気覚ましとして利用されてきました。
また、台湾南部の原住民にとっては、厄払い、祭事や祝い事にも使用され、特に結納には欠かせないものなのだとか。しかし、健康上のリスクなどの観点から規制強化へ向かっているそうです。
檳榔は、アジアの熱帯地域と一部アフリカに生育しているヤシ科の植物で、日本では奈良時代に薬用や染料として輸入された記録があるそうです。使われるのは、檳榔子(ビンロウジ)と呼ばれる種子で、駆虫や胃腸機能改善の漢方薬などにも用いられているとか。ただ、この檳榔子に含まれるアレコリンと呼ばれる覚醒効果を有する成分は、依存性が高いそうです。
嗜好品としての規制:
健康への影響
また、添加物の影響も指摘されています。
檳榔を加工する際に味や刺激などを調整する目的で石灰や香料が使用されるそうですが、石灰は口腔内のpHを変化させ、粘膜に損傷を与える可能性があること、一部の香料や着色料は長期的な安全性について十分な検証がなされていないものが使われている可能性もあることが指摘されています。
台湾衛生福利部の統計によれば、長期に渡って檳榔を常用した人は、檳榔を使用しない人と比べて、口腔がん発症率が高い傾向があるそうです。
それほど健康リスクを指摘されながら、こんなに売られているのはどうしてなんだろう?と思いますが、タバコもいくら健康によくない!禁煙!禁煙!といったところで、自販機もあるし、コンビニにも売っていたりしますよね。
栽培の規制:
農地利用面積、土壌への悪影響
まあ、そんなもんかなあと思いつつ調べてみると、檳榔は栽培が容易で非常に高い収益が得られるため、農家にとってはありがたいものなのだそうです。しかし、檳榔栽培にバナナ農地の約2倍以上も広い農地が使われていることへの批判と、檳榔の栽培による土壌への悪影響(保水力の低下で水害が発生しやすくなる)などの問題も指摘されていることから、栽培についても規制が進められているそうです。
台湾行政院農業委員会(現在の農業部)の統計によると、2021年の生産量は9万5,536トン、年間生産額は100億台湾元(約290億円)を優に超えているそうです。1961年頃から比較すると約40倍にもなるとか。実はすごい産業なのですね。
販売方法についての規制:
檳榔西施の衣装
あとは昔の記事で少し触れましたが「檳榔西施(びんろうせいし/ビンロウシースー)」の規制。檳榔西施とは、檳榔やタバコを売るの若い女性のことですが、中国の春秋時代末期(紀元前5世紀)に絶世の美女として存在した「西施」にあやかって呼ばれるようになったそうです。
かつて台湾でガラス張りの小屋の中に、肌を露出させた服装やランジェリー姿の女性たちが座っていたり、入り口付近に立っていて檳榔を売っている光景が見られました。その小屋は夜になると店内が少々妖しい照明だったり、昼間より一層肌を露出した服装になっていました。檳榔攤(檳榔を売る店)自体は他の国でもあるのに、こうした女性たちが檳榔売っているのは台湾だけなのだそうです。
こうしたスタイルのお店の発祥は、1960年代の台湾中部の南投県とも言われており、長距離トラックの運転手や深夜労働者たちが立ち寄りやすいようにしたことと、お客さんたちとの世間話がサービスの一部だったとか。また、1996年頃に桃園県にある業者が電飾カーや欧米の売春地区にある「飾り窓」を参考に店舗を作り、セクシーな恰好をした若い女性を使ったことが始まりという説もあります。
いずれにしても、それを「文化」と言っていいのかどうか?ですが、かつての台湾の一風景であったことは事実です。
私が初めて台湾に来た2005年、大型トラックの往来が多い幹線道路沿いにガラス張りの檳榔攤はありました。夜遅く台北から南投県に向かう高速バスに乗っていたとき、周囲が真っ暗な中、ボンヤリと妖しい光を放つガラス張りの小屋と、その中にいる女性たちの姿が見えました。台湾とはいえ12月の寒い時期に、キャミソールと超ミニスカートとミュールという格好で、外に出るときだけ、肩に上着をかける程度でした。
その頃はもう既に、台北などの都市部では景観保護や労働環境改善、公序良俗の観点から行政による規制が進み、そうした売り方をしている店舗は見かけませんでしたが、地方では珍しいものではなかったようです。彼女たちの素性はわかりませんが、地方の小さな農家や労働者階級出身者が多いことから、資本階級や男性社会における搾取だという批判もあるそうです。
今もそういうお店があるのかどうかわかりません。
彼女たちのような人たちが今もいるのかわかりません。
ただ、檳榔の習慣自体がなくなるとは思えないのですが、今でも店舗があるのはまだ再開発の手が伸びていない古い町ばかりのような気がします。再開発されたキラキラした街に檳榔攤はできるでしょうか? 屋台タイプは出現するかもしれませんが・・。
* * * * * *
【編集後記】
タバコとは違うけど、タバコのようなものならわざわざ撮影することもない気もしたのですが、振り返るとタバコを取り巻くもの、たとえば、パッケージ、タバコ屋さん、喫煙できる場所なども本当に変わりましたよね。
昔は飛行機でも電車でも灰皿がついていてみんな吸っていたし、喫茶店などは喫煙が当たり前でした。ライターでなくマッチを使用。タバコ屋さんといえば猫を抱いたおばあちゃんが店番をしていました。今となってはもう見ることができない光景です。台湾の一風景である檳榔はどう変わっていくのかなあ?
ちなみに、檳榔は違法薬物というわけではないそうなので、検疫を通せば日本に持ち帰ることも可能だと聞きました。そういうものであっても、万が一、在台中に興味本位で手を出して具合が悪くなって病院にかかった場合って海外旅行保険が使えるかどうか?なんてことが気になりました。そもそも台湾人に人気の珍味であるアヒルの舌にさえ手を出せないのに、心配することではありませんケド。
コメント