台湾|加害の歴史を知る:台湾初の平和と女性の人権資料館「阿マの家」(台北市大同區)(1)

行きたいけど非常に勇気が要る場所のひとつだった「阿嬷家(阿マの家/アーマージャ)」。直訳すると”おばあちゃんの家”。日本語の情報では「台湾初の平和と女性の人権を提唱した社会教育拠点」と紹介され、この時点で”お察し”ですが、日本の加害の歴史の中で非常に触れにくいもののひとつについての展示がある資料館です。

はっきり言えば「台湾慰安妇纪念馆(台湾慰安婦記念館)」。そのため、敢えて連続投稿を控えます。つらくなりそうな方は、またのお越しをお待ちしております。


めずらしく、編集前のひとこと

いつもは、編集後記という形でいろいろ思ったことを書いていますが、今回はめずらしく「前記」を書いてみます。意気込みというより、内容が内容だけに前段がいくつか必要だと思いました。(他にも結構書きづらいことを書いているだろうって?)
慰安婦問題は、日本にいると韓国と揉めていることばかりが目立ちますが、台湾にもこの問題は存在しています。日本軍にされたことはとても言葉にできるものではないのに、日本統治時代を懐かしんだり好意的な空気がある台湾においては、より言いづらかったのではないかと思っています。
いずれにしても慰安婦問題は往々にして、親日か反日か、右か左か、フェミニストかそうでないか、みたいな二元論的になったりします。一般庶民の間でも、知ってはいるけれど詳しくは知りたくない、話題にしてはならない問題として扱われてきました。そんな中、当事者の存在や主張が二の次になったり、不可視化されてきたように感じています。

日本にも戦時下の被害や歴史を継承しようという人たちはたくさんいても、多くは男性だからか、こうした問題には触れません。もちろん、男性側からは言いづらいという配慮を感じたこともないわけではありません。
一方、女性のつらさや問題を矮小化したり後回しにするのは、学校でも会社でも”あるある”ですが、歴史や文化、社会学が専門だと自称する人たちですらそれかよ・・といった場面にも、うんざりするほど出くわしてきました。あら?「継承が大事!」「利益じゃない、公益のためだ!」とか言ってなかったっけ???

放っておいたらどこまでも後回しにされてしまいそうな気がしつつ、いざ知る・書くとなると本当に勇気が要ります。渡台前の調べものの途中、しんどくなって何度も何度も中断しています。
ですが、非常に深刻な人権問題であり、彼女のような人たちがたくさんいたこと、被害者の救済と名誉回復が重要な課題であること、今でもなくなっていない問題であることなどを忘れてはいけないと思い、記事にしてみました。


アクセスと館内の様子

阿嬤家(阿マの家)を運営するのは、台北市婦女救援基金会。長年に渡って慰安婦被害者の救援に取り組んできた団体です。以前、この阿嬤家は、古くからの問屋街である迪化街にあったそうですが、2021年にMRT「民權西路」駅の近くのマンションの一室に移転されています。
 

台北市婦女救援基金会
女性や児童の身の安全を守ることを目的に、救援活動に積極的に取り組み、これまで性産業に従事する台湾人少女たちを救援してきた実績がある。現在は、グローバル化により東南アジア、中国などから台湾に人身売買された少女たちも救援の対象にしている。HPをご覧いただくとわかるが、DV,子供虐待、性的コンテンツ、盗撮、セクハラなどありとあらゆる問題に取り組んでいる。


MRT民権西路駅の5番出口が一番近いと思う。


見落として素通りしそうになりましたが、ここがマンションの入り口。
入口に警備の人がいて、阿嬤家に行くことを伝えると快くエレベーターまで案内してくれました。

ここの5階が「阿マの家」。


中に入ると小さな受付カウンターがあり、そこで入場料30元(2026年5月現在)を支払います。日本語対応はしていませんが、英語は通じるので日本人であることを伝えれば、日本語のパンフレットをくださいます。写真撮影、BLOGやSNSへの投稿について確認したところ、撮影時にフラッシュを使わなければ、どちらもOKというご了解をいただきました。

営業時間:火曜~土曜 10:00~17:00

館内を見渡すと、ピンクやパープル、白を基調にしたパステル調の優しい雰囲気の展示パネルが目に入ります。深刻で暗い雰囲気を想像していると、拍子抜けするかもしれません。


スペースは小さく、既に男女の大学生6名のグループ、欧米からの旅行者の白人女性3名、そして私、窮屈とか見づらい感じはありませんでした。館内の定員はわかりませんが、グループでお越しになる場合、人数によっては、事前予約を検討されるか問い合わせをされてもいいと思います。

 
ここでは、台湾で既に分かっている59名の「慰安婦」の歴史的資料を保存しています。
館内には、台湾慰安婦の口述資料、写真、ビデオ、絵画、書籍などの資料5042点、慰安婦関連の権利運動、慰安婦個人の持ち物など関連の物品など計730点が展示されています。
HPも展示物も中国語と英語ですが、館内では随所に日本語に翻訳されたカードが掛けられ、それを読むだけでも内容は伝わってきます。

横に掛けられた小さなカードを裏返すと日本語訳が書かれています。


ところで「阿嬷」とは?

”おばあちゃん”を指すことばって「奶奶(ナイナイ)」や「姥姥(ラオラオ)」じゃなかったっけ?と思ったら、それは私たちが一般的な中国語だと思っている北京語などであって、台湾や福建省などでは「阿嬤(ā mā/アマー)」が日常的に使われているそう。ちなみに、おじいちゃんは「阿公(アゴン)」。


被害者である彼女たちを「阿嬷(おばあちゃん)」と呼ぶことにこだわり、ここを「阿嬷家(おばあちゃんの家)」と呼んでいるのか、それには大きな理由があるそうです。 

台湾の慰安婦の史実が明るみに出たのは、1990年代。生存者の方々は既に60~70歳になっていました。
台湾社会ではこの年代の女性を「阿嬷」と呼んでおり、彼女たちは日本の軍国主義の犠牲者ではあるが、往時の台湾女性の優しさや逞しさを備えているごく普通の「阿嬷」たちであることを忘れてほしくない、何度でも思い起こしてもらいたいという思いからなのだそうです。

つらい絵や写真ばかりでなく、こうした絵も展示されている。

本当によくないことなのですが、何某かの被害にあった方を「特別な事情や理由がある人」「運が悪かった人」として腫れ物に触るようにしたり(配慮とは非なるもの)、「自分たちとは違う」と線引きをすることで自分たちの心理的な安全を確保しようとしたりすることがあります。
ひどいものになると、それも自己責任として非難したり、反省や改善を求めたり、蔑んだり、面白可笑しく吹聴したり。スピリチュアルな話に結び付けたり。それによって、被害者が二度、三度と傷つけられることがないようにしたいものです。
なくなればいいと思いつつ、現実にはなかなか難しく、史実や当事者の気持ちに温かな関心を持って、学び続けるしかないのかもしれません。もちろん、知ったからといって、ちゃんと理解や対応ができるわけではないけれど、知らないよりずっといい。ただ、こうしたことを知る側も無傷ではいられない、相手の心の傷が深く、優しさが優しさとして通じないこともある。何より、知る前には戻れない。そう思うだけでも、すごく勇気は要りますが、それでも知ることは大切なことだと思っています。

知ることが「最初の一歩」のはずなのに、「最後の砦」という気がしますよね。

 

本記事の更新時期は不明ですが、つらい話も出てきます。
読むとつらくなりそうという方は、次回以降の阿マの家関連の記事は避けてくださいますよう、お願いいたします。

 

阿嬷家(阿マの家)/AMA MUSEUM
所在地:台北市大同区承徳路三段32号5階
営業時間:火曜~土曜 10:00~17:00
入場料:30台湾ドル/人
(2026年5月現在)

 


コメント