東京|高度経済成長期の物流センター:五反田TOC【解体予定】

五反田のTOCビルも2023(令和5)年3月末で閉館し、その後すぐに解体される、という話を聞きました。
※追記:解体工事着工を6ヶ月から1年程度順延、それまで営業を続けるとのこと(2022年9月の発表) 


また「あって当たり前」になっていたものが姿を消すのかと、立ち寄ってきました。もう閉店してしまったけど、レトロ喫茶好きに人気の「LIPTON」もここに入居していました。



TOCは、高度経済成長期の東京で最先端の流通と物流の実現のために計画され、1970(昭和45)年に開館。地下3階地上13階建、延べ床面積は17万4千平方メートル。
当時は「東京卸売りセンター」という名称で、1982(昭和57)年に商号をTOCに変更。以来、五反田と聞くと「TOC」が思い浮かぶほどシンボル的な存在だったような気がします。



 物流センターというより、商業ビル・複合施設という感じです。
卸売店から小売店、飲食店まで約400テナントが軒を連ねており、バイヤーだけでなく一般の人も入れます。(年3回行われる大セール「TOC徳の市」を楽しみにくる人もいます。)
貸会議室、屋上にはゴルフ練習場、オフィススペースにはIT企業も入居していたり。かつて、サンリオ本社が入居していたり、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井氏が、前身の小郡商事時代にここに通っていたこともあるとか。

この無料シャトルバスを見かけることもなくなるなんて・・


五反田は古い町ですが、時代や状況に合わせて柔軟に変化してきた歴史もあります。
今風に言うなら、新しい企業を迎えて育てる「インキュベーター」みたいな面も持ち合わせています。
六本木や渋谷のような華やかさはなくて、妙にシブいのは、町の古さがうかがえることだけでなく、合理的、質実剛健といった”古き良き東京らしさ”が残っていると感じるのは、私が昭和の東京生まれだからでしょうか。


都内唯一のABCマート・アウトレット、水晶専門店、マニアックな輸入雑貨店、100均などもあり、雑居ビルとはいえ、ここまで多種多様なところも珍しい気がします。安いし何でもそろうこと以外に、その雑多な感じが面白くて来る人も多いのだとか。 

五反田はもともと水運(目黒川)と陸運(国道1号線、等)陸運に恵まれていたため、明治後期からは中小の工場が集まる場所として、また花街としても栄えました。このTOCビルが建つ場所は、戦前まで星製薬の工場がありましたが、戦後に廃墟のようになってしまったところを、戦前の鉄鋼王:大谷米太郎が会社ごと買収します。




この頃、工場の都心集中を分散させるため、1959(昭和34)年に「工場等制限法」が制定、目黒川沿いの町工場は続々と郊外に移転し、跡地には小規模なオフィスビルが建ちならぶようになりました。

既に閉鎖されている「LIPTON」

 

 

同時に必要とされていたのは、大規模な物流拠点。
東京には江戸時代から続く問屋街がいくつもありましたが、急激な経済成長と自動車輸送が進むと、交通量も物量も対応しきれなくなっていました。

都内に分散している小さな問屋さんを集め、卸売の機能を集約しようと考え、それを実現したのが大谷米太郎氏だそうです(残念ながら1968年に亡くなり、完成を見ることはなかったそうです)。

※大谷米太郎は、1964(昭和39)年の東京オリンピックの際に「ホテルニューオータニ」を建設した人。TOC設計施工を担当したのは、ニューオータニと同じ大成建設だそうで、名コンビだったのですね。
東京タワーの逸話もあるし、高度経済成長期の勢いって本当にすごかったんだなあ。

 

そんな流通・物流センターを作るのであれば、まず、車でのアクセスがよい立地であることは大前提。そして建物が巨大にして、コンテナごと搬入できるような造り、広い荷捌場、駐車スペース(約750台)、大型機械も運べるエレベーターなど、先進的な設備を揃えたそうです。
知れば知るほど、よくそこまで考えついたものだと驚きます。しかも必要に迫られているから、工期もかなり厳しかったと思いますが、建設当時は日本最大の容積率のビルだったそうです。


 そんな厳しい工期や重厚感のある外観からは想像もつかないくらい、小売り店舗や飲食店があるフロアは、昭和のショッピングセンターという感じのかわいらしさ。


意外なことに、開館した頃は、日本橋横山町あたりの問屋街がここに移ってくるだろうとの期待が外れ閑散としていたとか。ある日、このビルを紹介する新聞記事に、「一般客も卸売価格で買い物ができるかもしれない」と書かれてたことから、一気にお客さんが押し寄せたとか。業種にこだわらずに入居テナントを集め、卸と小売を両方やる店が増えていき、現在のTOCが形作られていったといいます。

計画通りではなかったかもしれないけれど、テナント募集するビル側と昭和の商売人たちが、これだけ面白い空間を創ってしまったという点でも、非常に面白いビルだと思います。全盛期の写真がないのが残念。


 

上に上がるほどデザインや趣きが変わって、少し高級感を増してきます。フロアとか用途によって、デザインも照明も変えています。


 


 

新しい今のビルって、エントランスホールはきれいで豪華にしてても、それ以外のスペースがえらく無機質で、どのフロアも同じような感じだったりしますよね。TOCは複合施設だからっていうのもあるけど、こんな風に別のビルかと思うほどデザインを変えてしまうって、おしゃれだなあ。また配色とも温かみがありますよね。

 

 

 


屋上には、ゴルフ練習場と氷川神社があります。
ちょうど夜に行ったから、わずかだけど夜景も見えました。



 

建替えは2027年頃の予定で、地上30階、地下3階、高さ約150m、延床面積約27万6千平方メートルにもなるそうです。


【おまけ】
TOCの入口のところにある交番もレトロですよね。ここもイマドキの交番に建て替えられちゃうんだろうな。


 

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<編集後記>
ここから歩いて10分くらいの住宅街の中に、宮造りの銭湯「松の湯」さんがあります。住宅街の細い道を何度も曲がるので、土地勘ゼロだと迷うかもしれませんが、Googleマップを見ればたどり着けると思います(目黒不動前駅の方がわかりやすい)。
TOC→銭湯は、私の定番コースですが、TOCが解体されたら寂しいなあ。銭湯については、よろしければこちらをご覧ください。

(拙記事)
東京|松の湯(品川区西五反田)/宮造りの銭湯が多い理由

 

 

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