PEOPLE|台湾原住民の思いとコトバ(2):消えゆく言語と文化の継承/野生動物と友達?!

台湾原住民のタイヤル族の子供たちが通う小学校へお邪魔しました。タイヤル族は、中国語、台湾語、日本語、タイヤル語を混用し、世代によって使う言語が異なっています。

年配者はタイヤル語を主とし日本語も堪能。若い世代は台湾語と漢語が中心でタイヤル語には不自由し日本語は理解できない。そんなわけで世代が異なると直接会話ができない時代もあったとか。

原住民たちの生活は現在ではかなり漢化されているため、私たちの暮らしと変わりませんが、それは自ら取り入れた文化ではなく、外から押し入って来た者たちに強制され、翻弄され続けきたという歴史の上に成り立っています。

 

 ざっくり言うと、1600年頃までは台湾原住民だけだったのに、オランダやスペインから、清朝時代には福建省から、その後は日本、そして戦後は国民党が入ってきて、その都度混乱し、言語や文化、生活様式などあらゆるものを強制されてきました。
今回お世話になった原住民の方は、部族の言葉、台湾語、中国語を日常的に使い、年配の方はそれに加えて日本語も話すことができました。

 

 


原住民の言語・文化やアイデンティティを伝承していくため、この小学校ではタイヤル語を教え、校舎や給食をはじめ教育環境にも様々な工夫を凝らしています。
部族によって言語は違うものの、タイヤル族をはじめ多くの部族は固有の文字を持たないため、現在、読み書きの際はカタカナやローマ字を使用しているそう。ただ、部族の言葉に近い音を表記するのは、とても大変で手間がかかる作業なのだとか。


一方で、日本語や漢語を強制されたことによる意外なメリットもあったといいます。
それまで、部族によって言語が異なるために、お互いのことがわからず、無知や恐怖や過度な警戒心から、常に緊張が伴い、出会い頭に喧嘩するのは日常的。実際に争いに発展して死傷者が出ることも多かった。ところが、共通の言語を持ち始めると、次第にコミュニケーションや相互理解が生まれ、争いは減っていったそう。

今回案内してくれたPさんはパイワン族だし、Pさんの幼馴染で大親友のTさんはタイヤル族、気質も言語・習慣も全く異なる部族ですが、互いの違いを認め合い、時にはツッコミ合いながらも、共同で原住民の文化や言語の伝承に尽力しています。


小学校の給食。原住民は「ムササビ」も食べる人達なんですが、
給食は鶏肉と川魚でした(笑)。おいしく頂きました!

 

原住民の身体能力の高さ
原住民の方達は総じて身体能力が高いと感じることが多いのですが、聞くところによると、特にタイヤル族は身体能力も高く、運動神経や動体視力、リズム感は抜群によいとか。台湾プロ野球の世界や芸能界でも、タイヤル族出身の人が結構活躍しているそう。




また、こんな話もある。
今から数十年前、タイヤル族のTさんがまだ小学生の頃、同級生たちと小さいナイフを投げて遊んでいたら、漢人の子がよけることができずに怪我をしてしまったそう。
「原住民の子供なら、あんなものは簡単によけられる。
 まったく漢人は本当にドンくさい」
と、うんざりした顔。いや・・それは・・、日本人も無理(笑)。

太平洋戦争中、高砂族の若者たちは日本軍の「台湾高砂義勇隊」として南太平洋の密林戦に参加したり、開墾や土木作業に従事するなど、大きな貢献を果たしています。身体能力の高さだけでなく、感覚にも優れ、密林や山奥などの環境でも彼らは自在に動くことができたそうですが、そういう能力を戦争に使わせてしまったのかと・・・


野生動物と友達?!
原住民Pさんと居てすごく不思議に感じることがありました。
Pさんの車で山奥を移動していたとき、車の調子が悪くなり、ディーラーに電話したところ山奥ゆえに1時間半くらいはかかると言われてしまいました。暗くなってきたし、ディーラーの人はなかなか来ない。そんなとき、茂みの方からガサガサ、バキバキと音がして何かいるみたいな感じ・・・、怖くなってきますよね。
そしたら、Pさんがいきなりその音源がある方に向かい、部族の言葉で怒鳴っている・・。すると、またバキバキとかガサガサと音はするけど、だんだん奥の方に戻るように遠ざかって行きました。

Pさんは茂みのあちこちを指さしながら、
「あー、今、そことあそことー、あそこに動物がいました。大きくない動物です。
 私の友達が怖がってるじゃないか!怖がらせるようなことをするなー!って、
 言っておきました。だからもうダイジョウブ~。」

どのくらいの大きさの動物が、どっちの方向に、どのくらいの距離に、何匹・何頭くらい居ると、暗闇の中で瞬時に聞き分けただけでもすごいのに、野生動物に説教?!
で、動物たちも言うこと聞く???
動物たちはみんなどこかに行っちゃったようで、その後は何も音がしなくなりました。

これはどういうことなんでしょうか?って聞いたら

「ここは原住民の土地~。私、よく知ってる土地~。
  動物もよく知ってる~。」


とニッコリ。当たり前って顔をして。すごいなあ。素晴らしい能力。こういうのって、継承しきれるものなんでしょうか????



名前を返せ?モーナノン/トパス・タナピマ集 (台湾原住民文学選)

日本語と華語の対訳で読む 台湾原住民の神話と伝説 上巻



 

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【追記:2022年10月】
2022年2月時点での世界には7151の言語があるそうですが、毎年いくつかの言語が消滅し、そのスピードは加速しているそうです。UNESCO(国際連合教育科学文化機関)が2010年に発表した『Atlas of the World’s Languages in Danger』によれば、1950年から2010年までの60年の間に230もの言語が消滅したそうです。
消滅の主な理由は、

  1. Outright genocide(侵略などにより民族が虐殺され話者が絶滅したとき)
  2. When a community finds itself under pressure to integrate with a larger or more powerful group(あるコミュニティーが、より大きな、あるいはより強力なグループと統合する必要に迫られたとき)

日本にいるとピンとこないかもしれませんが、日本国内でもいくつかの方言が既に消えているそうです。




【表記について】
当サイトの台湾に関する記事においては「原住民」という表記を使用しています。日本では差別的な意味が含まれる語とされていますが、漢語で「先住民」は既に滅んだ民族を意味するそうで、台湾では「原住民」という表記が公式にも使われています。日本語も漢語も理解できる原住民の方々にお聞きしたところ、「私たちは”原住民”である。そう呼んでほしい。」とのことでした。当サイトは日本語で書いていますが、彼らのことを書くときは彼らの意思を尊重して、「原住民」という表記を使用しています。

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